竜安禅師取材メモ 4/15 シウマイ

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 寒暁の石庭は、白砂の仄明かりに抱かれた薄闇であった。私は傍らの柔和な影に尋ねた。
「涅槃の世界とは、どのようなものなのですか?」
 疑天竜安禅師の声が静かに響いた。
「それは隠されてはおりません」

 朝日が庭を照らした。庭石に隣の庭石が映っていた。その隣の庭石も隣の一群れの石組を映していた。全ての庭石が庭の全てを映し、全ての白砂の一粒ずつが庭の全てを映していた。その全てに私がいた。私は世界を映し世界に映される鏡なのであった。

 焼売の香りがしてきたのでそちらを向くと、新横浜から乗車してきた会社員が、隣で崎陽軒の特製シウマイ12個入のフタを開けたところだった。並んだシウマイは互いに互いを映し、それはただ一つのシウマイのように見え、合わせ鏡に映したかのような無限のシウマイの連なりにも見えた。もはやシウマイは私であり私はシウマイであった。
 会社員が手にした醤油さしの顔が呵々と笑っていた。
ファンタジー
公開:19/02/17 15:07
更新:19/02/18 09:24
ひょうちゃん

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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