名医

　ネットでは『必ず、聞こえるようになる』名医とすごい評判だったが、耳鼻科の先生は思ったより若かった。
「どうされました？」
「昨日のお昼頃から耳鳴りがして」
　私が症状を説明しようとした時。
「先生、急患です」
　緊迫した声が聞こえた。
　ストレッチャーで中年の男性が運ばれてきた。その後から妻らしい女性と男の子がついてくる。
「声をかけても、返事がないんです。何も聞こえないみたいで。お願いします。先生、主人を救ってください」
　女性が泣きながら訴えかける。
　男性には意識がないようだ。なぜ、この状態で耳鼻科に連れてくるのだろう。
　誰も不思議に思わないらしい。
「大丈夫、聞こえるようにしてみせるから」
　先生は不安そうな男の子に声をかけた。
　それから、男性の状態を確認すると、人工呼吸器をつなぎ、心臓マッサージを始めた。