くるん! ―ギフト(天賦の才)2 

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 最初それは、僕の中では、緩衝材のプチプチ潰しのような行為だった。でも、他人には真似できないと分かってからは、ペン回しのようなものに変わった。
 多分小学校1年生の夏には、もう僕はそれをしていた。みんなは気持ちが悪いと言い、僕のこともヘンだと言った。僕は樹の根元にしゃがみこんで、熱射病になってもやり続けたし、冬の間もできるよう、夏の間にストックしておくことも覚えた。
 今、僕は自分を現代芸術家だと思っている。周りの人が気づかない美をくるん!と取り出して、何食わぬ顔で木に引っ掛けておくアーティストだ。
 同時に、それはテロに似ているとも思う。何の変哲もない日常に、実はとんでもない仕掛けが隠れていて、そうと知ってしまった後は、これまでの日常が信じられなくなるはずだからだ。
 今年の夏、あなたが見かける蝉の抜け殻のいくつかは、この私がくるん!と裏返して、そっと引っ掛けておいたものかもしれないよ。
ファンタジー
公開:19/02/15 11:33

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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