水増し筆跡

書道家の林「あっ。字を間違えた。
締め切りの時間が目の前だし今更直せないぞ・・・。
ちょっとずつ線を足せばなんとか誤魔化せるんじゃないか・・・？
ココをちょんちょんと、ココはシューッと・・・。
ううむ、より酷くなってしまったぞ。
いや、ならばココをこうしてこうで・・・。
もはやただのゴシック体になってしまったような。
むっ、ついに編集者が取りに来てしまった。
はい。完璧ですよ。
ほい、どうぞどうぞ・・・。またよろしく。
あーあ、渡しちゃった。｣
そんな俺の心配はよそに何故か斬新なデザインだ表現だと最大の評価をもらい、新しい分野として定着して次々とフォロワーのアーティストが増えて行った。
皆俺より上手くて熱い。
そしてパイオニアとして祭り上げられる俺は、なんとなく残る心苦しさを紛らわすため水を増した水割りを啜っていた。