観覧車に乗る

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 どのアトラクションの行列なのかも分からないまま、自動的にその最後尾に並ぶと、すぐに僕は最後尾ではなくなって、行列の真ん中の辺りに立っていた。
 だからもうすぐ観覧車に乗れるはずだと思う。見たことのないキャラクターが、待ち時間240のボードを持って通り過ぎた。分だろうか? 年だろうか?
 ファストパスを持っている人たちが、行列の脇を駆けていく。
「結局は戻ってくるわけだし…」なんていう会話の切れ端に、僕は「観覧車に乗るとは」と考える。
 コーヒーカップのステージを立体的にしたみたいな無数の観覧車の集合体は、猛烈な速度で歪な楕円運動を繰り返し、漸近する他の観覧車とランダムにゴンドラを入れ替えながら、全体としてはゆったりと、月まで届くかと思われるほどの軌道を周回している。
 行列はまったく進まなかった。だが僕はもう最後尾が見えないくらい先頭の近くまで到達していた。
 でも観覧車はまだまだ遠い。
ファンタジー
公開:19/02/14 17:20
更新:19/02/14 21:26

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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