再生

近所の桜並木は、淡いピンクの花や緑の木陰、紅葉で住民を楽しませていた。
が、最近一部の元気がない。
町内会の担当者として研究者に相談すると、以前なら老齢化や腐朽で諦めたものでも最近は再生させ得るという。
施肥や土壌改良と良い薬とが相俟って見事、今年度予算分の桜が蘇った。
けれども薬の在庫は僅か、もう作れないらしい。
「実は不明な原材料があり、ないと同じものにならないんで。この人が知ってるけど行方が……」
研究者は自論文の引用文献のとある著者を指した。

治すべき桜のため手を尽くし、その人の実家に電話した。
母親だという人は言った。
「家を教えるから娘の様子を知らせて頂戴。私は脚が悪くて」
山奥の家は鍵が開いていて、机にPCと英数字羅列のメモがあった。家の外には太い幹の桜と枝同士が手を差しのべ合っているような細い桜が並び立ち、共に葉と色濃い花をつけている。細い幹の模様は、微笑む女性に見えた。