神主になる男(その日、バレンタイン。)

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柄杓に汲んだ水で、片手ずつ洗う。もうすぐ、通信教育修了試験の結果発表だ。
発表前に気を落ち着けようと参拝するため、バレンタインの早朝、やしろへ向かった。試験に合格できれば、僕はこの神社の神主になれる。
全国に名を馳せる程の知名度はないが、赤い小袋に入った鹿型のお守りが人気の、地元に愛されている神社だった。
半年前、神主である叔父と、跡継ぎである従弟が、交通事故で亡くなった。葬式の際、御年90歳になる祖母から、跡を継がないかと提言されたのだった。

口をゆすごうとして、脇に抱えていたノートを落とした。社務所で拾ったかなりの年代物で書き心地が良く、通信で学んだ要点をまとめていつも持ち歩いていた。水縁から拾い上げると、こよりで閉じられた背から水が滴る。中身は無事だろうかと開いてみる。無地のページには水が溜まり、それが黒く文字を成しているようだった。よく見ると「鹿ノ乙女、到来。」と記されていた。
ファンタジー
公開:19/02/14 19:54
更新:19/02/15 06:34

みついあゆみ

​​​​​​イラスト描く時に、物語を考えることが多いです。物語が前後、つながっている場合があります。

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