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私の母は泥棒だ。幼い頃から美しかった母は皆の目を奪った。皆の興味を奪った。
皆が母の為に何かしたいと申し出た。母も皆の期待に応えるべく多くを学び、その才能を発揮した。
母は天才と呼ばれた。誰もが母を褒め称え、母の全てに心奪われた。
母は若くして結婚した。父は母に心奪われたと笑う。母の為に家族の為にと今日もあくせく働いている。
母は今日、何をしているかと言うと病院のベッドの上で眠っていた。
母の恵まれ過ぎた才能。その代償は短命という残酷な対価であった。
父は少しでも母に長生きしてもらいたいと今日も働く。
私もそんな父を少しでもサポートしたくて、母を安心させたくて家事を一手に引き受けた。
母は涙する。
「ごめんね…私が貴方達の時間を奪っていいわけないのに…本当にごめんね…」
私は首を振る。だって私はまだ、母から何も奪い返していない。
私が奪い返すまで母には生きてもらわないと困る。だから生きて。
公開:19/02/13 18:26

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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