皹と欠片

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 オフィスビルの爆破現場には、硝子の破片が散乱していた。規制線のすぐ外側で、僕はその乱反射に心を奪われていた。
 その同じ現場で、女の子が僕と同じように硝子を見つめていた。
「同じものを見ていましたね」
 彼女は始め困った顔をしたが、僕の眼鏡を見ると、やわらかく微笑んだ。レンズに皹が入っていたからだ。
「光の反射がとても綺麗」
 僕はうれしくなって、ポケットから掌へ、ビー玉を取り出した。
「鍋で煮て水に漬けるんです。そうすると皹が入ります。その屈折光はきれいだし、こうして景色を写すのも好きです」
 ビー玉の中では爆破現場も野次馬も、空の光の彼方で逆さまだった。
 すると彼女は、ポケットから手鏡を取り出した。その表面は粉々だった。
「私は割れた鏡に映るモノが好きだわ。気まぐれで、きれいで、儚くて」
 僕達は連絡先を交換し、次はお互いに捨てられずにいる、ビー玉や鏡の欠片を持ち寄ろうと約束した。
ファンタジー
公開:19/02/13 12:15
更新:19/02/13 12:17
『小さなお茶会』 『少年は荒野を目指す』 『じみへん』

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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