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 ―自殺する日も晴れがいい

 雪の中を邁進する列車は、七人掛けのベンチシートに、女子学生たちの桃色の手袋と、赤い唇と、白い息とを行儀よく陳列していた。青灰色の空を背景に、彼女らの上気した頬が輝いた。私はその色の氾濫に気圧されて、次第に俯きかけたのだったが、そこで唐突に気付いてしまった。

 ―ここには黄色が無い! 彼女らは長い途上を恐れもせずに「今! 今!」と叫んでいる!

 途上? それは雪煙と共に蹴散らされる。

 世は全て移ろいの朧な残像のみを幾重にも積み重ね、全体は常に不確かな記憶でしかない。色褪せた記憶は惨めだ。ましてや、そこから黄色が失われていたとすればなおさらだ。

 今、春の列車を揺らしながら、空が山脈を、山脈が菜の花を圧殺した。七人の老婆たちの乾いた唇の隙間から、青黒い息が漏れている。

 ―さて、何番目にしようか

 七対の唇を吟味する私の口元には笑みが浮かんでいる。
その他
公開:19/02/13 11:39

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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