稽古を積むスクランブル交差点

　スクランブル交差点を我々が安全に通行できているのは、稽古のおかげだ。１日に何千人もの人が通るスクランブル交差点。相当な稽古を積まなくては、とても通行人をうまくさばくことはできない。
　稽古が足りなくて、チンピラの肩のぶつかり合いが、やくざの抗争にまで発展したこともあある。
　腕の確かなスクランブル交差点なら、人と人がぶつかるようなことはしない。が、時にぶつかることがある。
　ずっと互いに思いを寄せながら、思いを打ち明けなかった同級生が卒業後、スクランブル交差点で肩をぶつけた。顔を見合わせて、はっとした二人。スクランブル交差点の稽古のたまものだとは露知らず、その後も時々、二人で肩を寄せ合い通っていくのを、交差点はやさしく見守っていた。
　時々起こる肩と肩のぶつかりは、稽古を積んだスクランブル交差点の、ちょっとしたいたずら心、いや親切心によるものだ。