東京のル・コルビジェ

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 ル・コルビジェが、東京都心を歩いていた。自分の「近代建築五原則」を「インターナショナル様式」が圧倒していたことは悔しかったが、事実は事実として受け入れ、ミース・ファン・デル・ローエを称えようと思った。
 そんな中で、ピロティ、自由な平面、自由なファサード、を備えた建物を見つけることが出来た。彼は、ひっきりなしに車が出入りするその建物の前に立ち、車社会と過密化に対する彼の原則は間違いではなかったのだとガッツポーズをした。
「今、屋上庭園が大人気」と夕方のテレビでやっていたし、あとは、横長の窓さえそろえば…
 だが、この建物には窓がなかった。各階にある横長の隙間に、ガラスが嵌っていないのだ。
 なぜ、私の原則に最も忠実なこの建物に、窓がないのか…
 
 東京のル・コルビジェは、自分の五原則が、自走式立体駐車場としてしか実現しなかったのだということを認識し、肩を落として、その場を去っていった。
ファンタジー
公開:19/02/11 14:20
更新:19/02/11 19:25
1.ピロティ 2.屋上庭園 3.自由な平面 4.横長の窓 5.自由なファサード

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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