猫草枕

吾輩たちは猫である。
名前も猫生(にゃんせい)も其々にある。

──さて。
吾輩は猫にして美大生である。
種族と貧乏を乗り越え、東京芸大油画科に首席入学したのである。
作品も学生ながら猫目線の独特な画風が評価され、あらゆる賞を総ナメのペロペロである。

斯様に優秀な吾輩であるが、実は留年中……俗に言うダブりである。情け無い。

──何故か？

吾輩たち猫族は夜行性ゆえ、朝昼の講義はいつも眠ネム夢の中なのである。
眠ってしまうと単位というモノは頂けないのである。

嗚呼。とかくに人の世は住みにくい。


──否。

『あらゆる芸術の士は人の世を長閑
にし、人の心を豊かにするが故に尊とい』と「先生」は仰ったではないか。

そうだ。住みにくい世の中を束の間でもくつろげて、住みよくするのが画家の使命なのではなかったか？

たとえ単位が貰えなくとも、学士に成れずとも吾輩は天命を全うするのである。