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実の母の蒸発をきっかけに少女は黙って家を出た。
誰も少女を探さなかった。
義父との関係は捜索願いが出なかったことから察せられるが、「こどもの日」に決行したのは彼女なりの皮肉かもしれない。
最初は異国の地を目指すことも考えたが、現実的でないと理解した彼女は国内を流離うことに決めた。
持てる限りの財産と実年齢よりも上に見える外見を頼りに辿り着いたのは、閑散とした田舎町だった。
家を出てから七日目の朝、一匹の子猫が少女の寝泊りしている廃車両に迷い込んできた。
子猫はすぐさま少女に懐き、少女も猫を自分の子供と思うようにした。
気付けば少女は、猫と自分のいる車両内を憧れていた異国に見立てていた。そしてこの日にちなんで、カー(車両) ネーション(国家)と名付けた。
「ねえ私、一週間で子供から母親になっちゃったよ」
少女が膝の上の子猫に語りかけたとき、車窓から吹き込んだ五月の風が暖かく母子を包んだ。
青春
公開:19/02/09 06:56
更新:19/03/12 08:25

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