生け贄

「ねえ。この世界が真っ当なら、今、僕のしている行為は真っ当かい？現実に打ちのめされた正義は悪の生け贄となった。どうして、運命とはこうも悲惨なのかな」

浩介は、人気のない静寂のビルの壁に、初対面の女性の首元を締め上げ、壁に打ち当てた。

「く、苦しい・・・誰か・・・助けて」
彼女は掠れた声をあげた。が、運悪く、周りには誰も助けてくれる人はいなかった。

「これは文化そのものだ。分かるだろ。人が死んだとしても、誰一人哀しむ者はいない。それが現実だ。僕はただ自分の使命を果たしている」

ぎゅっと、更に首を締め付け、顔を近づけ、汚れた舌先を耳に接着させた。

「かわいそうに、まるで、これじゃあ、兎じゃないか・・・」

その時、空からのライトが二人に当てられた。

「畜生・・・」
彼は舌打ちをし、彼女の拘束を解いた。

光は、彼の姿が次第に消えていくのをいつまでも追いかけた。