再会に海は凪ぐ

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 私の心臓は、大きな波を立てていた。

 父の所在を偶然知った私は、海辺にあるその家を訪れた。
 酒に溺れ、失踪した父。20年の歳月が過ぎた今日、ついに再会する。
 何度も迷ったが、意を決して指をぐっと押し込んだ。

——ピーンポーン。

 誰も出てこない。

——ピーンポーン。

 何度鳴らしても同じだった。諦めて帰ろうとした私に、後ろから男が声をかけた。
「誰や?」
 振り返った私の顔を見ると、男はすぐに顔をくしゃくしゃにして涙を流した。
「お前……。こんな立派になって……」
 目の前の男の姿に、もう酒に溺れたあの頃の面影は無かった。
 男の顔に見えるのは後悔と、いくつも重ねられた年月だけだった。
「お父さん。会いたかったよ」
 私達は、20年の歳月を涙で埋め合うしか無かった。多くは語らず、ただ涙を流し合った。

 海はオレンジ色に染まり、私たちを静かに見守っていた。
その他
公開:19/02/08 16:07
更新:20/09/22 16:07
現代文学 純文学 感動 親子

花脊タロ( 京都 )

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