仮創幻実(かそうげんじつ)

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閉め切った鍵穴から、石鹸の微香が漏れた。
前に開けた時、そこは夥しい緋の海で。お前は静かに永遠の旅人と化していた。
金錆びた喘ぎひとつも堪えたきり。寡黙な激情家に似合いの幕だと讃えれば満足か?

――まったく、お前は馬鹿だ。

耳に仮創の実を挿し、洗浄された室内へ踏み入る。
億分率の針が大脳へ微弱電流を通し、あらゆる夢を実現する。人の営みは電気刺激の交換でしかないのだから、五感も、記憶も、物理現象も感情思惟も、生も死すらも超え、当人の望む、好きな存在を世界を電気的に創り出せる。

ほら、そうやってまた問い詰める様に見る。何故と詰りたいのは私の方だ。
僅かに開いた口が、恐らく私の名の初音を刻む刹那、耳から『実』を引き抜いた。

いいや、馬鹿は私だ。

くつくつ嗤いが込み上げる。
お前の成果を盗み、利用し、自分の罪と愚かを確かめて。
私が欲した夢は、自分が殺したお前に、私を認めさせる事だった。
SF
公開:19/02/07 00:00
夏目漱石『こころ』と バーチャル・リアリティー

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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