桜並木の下で

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「きっと逢いに戻って来る」
その軍人はそう言い、踵を返すと、桜並木の下で泣き崩れる彼女から、去っていった。それは彼の最後の姿だった。

僕は、まだ駆け出しの小説家だ。その日、参考資料を探しに書店を訪れると、一冊の本と目が合った。橘 華織という作家さんのエッセイ集だった。驚いたのは、巻末の引用文献の欄に僕の作品「桜並木」があったことだ。

私は永山真一の新作を待ち望んでいた。私がエッセイストとして作品を書かせてもらえるようになったのは、彼の作品があったからだ。あの「桜並木」は私の故郷を舞台に描かれた作品なのだ。

その日、ふいにあの桜並木を歩きたくなった。それは見えない糸で引き寄せられるようだった。

桜並木の向こうから来る人は、誰だかすぐにわかった。

「こんにちは、橘さん」
「こんにちは、永山さん」

それ以上の言葉が出てこない。
二人は見つめ合い、ただ僕たちは、止めどなく涙が溢れ出た。
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公開:19/02/06 18:36
スクー 引用文献桜並木

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。
「電車家族」
隕石家族ショートショートコンテスト入賞。
「大男の力自慢大会」
「スカイフィッシング」
空想競技2020ショートショートコンテストW入賞。

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