ほぼ同じ複雑な表情で見つめ合う人々

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 一階でエレベーターを待つ人々は、二つ並んだ扉の上の階数表示灯を見ている。二台は抜きつ抜かれつしながら降りてきて右が先着し、大勢を降ろして下った。直後に左が着いて右を追いかける。
 B3から上昇に転じると、B2で右は左に抜かれて5秒遅れた。人々は左へ移動した。
 先着した左のエレベーターに全員は乗れなかった。乗った人々と乗れなかった人々との間に微妙な空気を残して扉が閉まる。そして表示灯にB1が灯った…
 乗れなかった人々は、その表示を見て、何ともいえぬ顔を見合わせたが、直後に右の表示灯に1が灯るのを見て、邪まな笑みを交わした。しかし、扉は開かないまま、表示灯の2が灯った…
 複雑な表情で表示灯を見つめる人々の前に、左のエレベーターが到着して扉が開いた。
 中の人々も複雑な表情でこちらを眺めていた。「閉」を押す人もなく、乗る人も降りる人もないまま、人々はほぼ同じ複雑な表情で見詰め合っている。
その他
公開:19/02/05 10:42
更新:19/02/05 15:13

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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