潮水(しおみず)

9
11

寄る辺ない気持ちで夜の海を泳いでいる。
夜光虫どもが、波よりも大きな声で私を呼ぶ。
──あの黒い島まで行けばいいのだな。
そうだ。そうだ。と虫が云う。

虫の混じった塩辛い汁が口内に入るのが不快なのでゆるりと身を翻し、仰向けに泳ぐ。月は無い。どちらが空なのか海なのかわからなくなる。
暗闇の中、梅の香が漂ってきたので顔が海水から出ている事がわかり、安心した。

噫。

あとひと月もすれば、いま盛りの梅にかわり桃が咲く。
あなたの誕生日は丁度その頃で。
あと何年かすると、私はあなたの歳を追い越してしまうのだ。
その前に、彼岸(そちら)に逝く事もあるのだろうか?
などと考えていたら口の内が海水であふれた。──溺れる。


健全な白い光が瞼の外を照らす。
気付けば私はベッドの中にいて、口中まだ塩辛い。海水だと思ったのは自身の涙であった。

私は
──自分の涙で死ぬのはダサくて嫌だな。

と思った。
ファンタジー
公開:19/02/06 06:17
更新:19/02/06 17:37

椿あやか( 猫町。 )

【椿あやか】(旧PN:AYAKA) 
◆Twitter:@ayaka_nyaa5

◆第18回坊っちゃん文学賞大賞受賞
◆お問合せなど御座いましたらTwitterのDM、メールまでお願い申し上げます。

◆【他サイト】
【note】400字以上の作品や日常報告など
https://note.com/nekometubaki



 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容