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ミルクが焦げ付かないよう鍋に目を落として、ふと気付けば、陽はとっぷりと暮れていた。
振り返って、壁の時計を見る。あの人の乗る帰りの電車が駅に着いた頃だ。

惑いながらも、人々の波に揺られ改札を抜けて。東口の階段を下り、最後の一段は必ず飛ばす。
冷たい北風に追われるように、帰り道を早足で歩く。だけど、曲がり角があれば立ち止まって、安全確認を怠らない。
そんなあの人の姿を目に浮かべながら、チョコレートをミルクに溶かしていく。

ベルが鳴った。コン、コン、コン。ノック音は三回。
「どちら様?」
「私。私。」
『私』じゃなくて、名前を言ってと問答するのは同棲してから何回目だろうか。

コンロの火を止めて、北風で冷え切った貴女へそっとマグカップを差し出す。幸せそうに頬を緩め、ホットチョコレートを飲む貴女の顔。
恥ずかしくて、こんな形でしか渡せないのだけれど。
親愛なる貴女へ。ハッピーバレンタイン。
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公開:19/02/05 22:27
更新:19/02/05 22:59

普通のへいわじん

月の音色にて噂を聞きまして。
よろしくお願いいたします。

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