方舟は夢を運ぶ

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 夢とともに投げ飛ばされた世界の欠片は、弧を描いて床に落ちた。
 人も街も寝静まった午前一時頃、私は未だに筆を走らせていた。新しく取り出した方眼用紙の上には、まだ私の世界は存在しない。あるのは、空間を隔てる400の囲い達。私は疲れた右手で鉛筆を握り、そこに隠された世界を掻き出す。
 世界の創造神も、疲れには勝てない。私は半分ほどまで書き進めると、筆を置く。この瞬間、わたしは神さまから、作家志望の一般人へと戻る。
 左半分がまだ白い世界地図の隣には、消し去られた物語の残骸が積もり、山を成していた。
 椅子を回転させ、後ろを振り返ると、ぐしゃぐしゃに丸まった世界の欠片達が、方舟を囲うようにして散らばっている。
 私は目の前の原稿を見直すと、ぐしゃぐしゃと丸めた。
「これもダメだな」
 方舟に向けて、新しく生まれた世界の欠片を投げ飛ばす。いつもの願いを込めて。

「これが入ったら、作家新人賞!」
その他
公開:19/02/05 19:53
更新:19/02/05 22:07
純文学

花脊タロ( 京都 )

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