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「そうか?」
「うん。霜の花って書くの」
裏路地で買った娼の源氏名だった。港育ちと言うわりに、磯風の臭わない蒼寒い肌をして、ごちゃ混ぜの酒と誰かの煙草に、安物の香水を着せた、ちぐはぐな化粧で笑った。
「あたし、雪女なんだ」
奇怪しい手合いは界隈に幾らもいる。その場が凌げればいい。一寸現実が飛べばいい。堕ちたがりの疵物食いには、壊れた夢で丁度良い。
「怖ぇな。……後で俺、凍っちまう?」
「多分、あたしが融ける」
夜雪色の身体は、外も中も温かくて軟らかで、融けるより熔けるだと妙に拘って、不格好なチークに体内時計を合わせながら、胸で揺れる十字架に填まった、水っぽい青がちらちら光るのを、見るともなく見ていた。
夢で、海に咲く花を掬った。
死体みたいに冷たく、舐めるとうっすら塩味がした。
起きた時、ベッドの隣は蛻の殻で、財布は料金分抜いてあった。
鎖の切れた十字架が、湿気たシーツに転がっていた。
「うん。霜の花って書くの」
裏路地で買った娼の源氏名だった。港育ちと言うわりに、磯風の臭わない蒼寒い肌をして、ごちゃ混ぜの酒と誰かの煙草に、安物の香水を着せた、ちぐはぐな化粧で笑った。
「あたし、雪女なんだ」
奇怪しい手合いは界隈に幾らもいる。その場が凌げればいい。一寸現実が飛べばいい。堕ちたがりの疵物食いには、壊れた夢で丁度良い。
「怖ぇな。……後で俺、凍っちまう?」
「多分、あたしが融ける」
夜雪色の身体は、外も中も温かくて軟らかで、融けるより熔けるだと妙に拘って、不格好なチークに体内時計を合わせながら、胸で揺れる十字架に填まった、水っぽい青がちらちら光るのを、見るともなく見ていた。
夢で、海に咲く花を掬った。
死体みたいに冷たく、舐めるとうっすら塩味がした。
起きた時、ベッドの隣は蛻の殻で、財布は料金分抜いてあった。
鎖の切れた十字架が、湿気たシーツに転がっていた。
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公開:19/02/04 00:00
更新:19/02/03 21:45
更新:19/02/03 21:45
霜の花/フロストフラワー
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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