恵方警報

「救急ですか？火事ですか？」
本日２桁目の通報に、俺はヤケ気味に応答した。
通常火事が先だが、訊くまでもない。本日２月３日は、圧倒的に救急。その元凶は、向かいのコンビニの暖簾が示す通り。

『恵方巻き』
誰が広めたか知らんが、人の仕事を増やしやがって。
節分の通報理由１位が『恵方巻き喉に詰まらせ窒息』だ。年始の餅が終われば、今度は寿司。無言で丸齧りなんてやめろ。恵方どころか西方浄土へ直行だ。以下『寿司食い過ぎて腹痛』『豆で滑って転倒』『子供が豆を鼻に詰まらせる』と続く。俺達消防士には、災難のばらまきでしかない。

「救急です！」
おっと通話中。
「家に鬼のお面を被った人が……」
いや待て。それ事件だろ！？
「そちらは１１０番……」
「いえ、それは隣ですけど、驚いた母がぎっくり腰に」
「至急急行します。お隣は警察を呼んで下さい」
まったく。節分なんてない方が、世の為人の為、俺達の平穏の為だ。