茶実さん

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私は霧の中で生まれた。

深い霧は茶の木を覆い、尖った部分を削ぎ、内なる力を高めてくれる。見上げればそびえ立つ山。朝露に濡れた葉は、霧の切れ目から入った陽に光る。その時、殻を破るように私は生まれた。

ある日1人の人間が迷い混んだ。彼は一言「幻想的だ」と言った。夢か現か分からず戸惑っていた。足を怪我してここにたどり着いた彼は、自分が死んだのだと思いこんだ。

可笑しくなった私は茶の葉を差し出した。それを噛んだ彼は「苦くて不味い」と言った。

「だけど僕は生きている」

それから彼は私と過ごし、怪我が治ると茶の木を持ち帰り、人間の世界に広げた。

私はその後、茶が薬にも羮(スープ)にもなるのを見届けた。茶は人間の文化に入り込み、時に人間の歴史に深く刻まれることもあった。

長い時間の後、ようやく彼を見つけた。幾度目かの転生を繰り返した貴方に、給湯室でお茶を淹れることになるのは、また別のお話。
ファンタジー
公開:19/02/05 00:03
更新:19/02/05 00:10
むうさんの 茶実さんの給湯室 勝手にbefore

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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