無言の庭

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 半透明の緑の中に、キラリと光るものが見える。
——バシャバシャ。
 山も谷も無い平野のようだった水面は、久しぶりにしぶきを上げ、音と波を立てた。そしてまたすぐに、静寂が訪れる。
 よかった。まだ鯉はここで生きている。

 ここは、一週間前に死んだ祖父が、むかし大金をはたいて買った別荘だ。庭の真ん中にあるこの池は、祖父がよく手入れをしていた。しかし今では、薄汚い緑色に染まってしまっている。祖父は数年前からここに訪れていなかったらしい。

 最後に聞いたのがいつだったかはよく思い出せないが、祖父はよく言っていた。
「ほら、拍手すると鯉たちは寄ってくるんだよ」
 口をパクパクさせながら近寄ってくる鯉を見て、嬉しそうにしていたのを思い出す。

 私はパン、パンと手を打ってみたが、池の中に散らばる鯉たちは池の中をかき回し続けるだけだった。

 祖父との思い出は、僕の中にしか残っていなかった。
 
その他
公開:19/02/04 15:11
更新:20/09/22 15:46
純文学

花脊タロ( 京都 )

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