手巻き寿司

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節分の夜、食卓に手巻き寿司が並んでいた。弱々しい字で『手作りよ』と書かれたメモも置かれている。妻の字だ。
寿司を手に取る。形が歪で、具が何なのかわからない。とりあえず丸かぶりしてみた。
ジャリ、とした食感に驚いた。生米、なのか? 具はソーセージっぽい。海苔は風味がない。
参ったなぁ、と思いながらも俺は食べ続けた。口の中はジャリジャリだ。幸い、ソーセージはちゃんと焼けており美味い。
最後の一口を放り込む。その時、ガリッと固いものを噛んだ。口から出し、それを見た。
「……爪?」
あぁ、なるほどな。
「骨を砕いて米に見立てたの。海苔は皮膚よ。具は指。爪は取ったつもりだったんだけど……」
振り返ると、妻が片手を隠しながら微笑んでいた。恵方巻ではなく、手巻き寿司なのは、そういう事か。
妻は病で余命あとわずか。手料理を口にするのは、おそらくこれが最後だろう。
大丈夫だ。この愛は、血肉として受け取った。
ホラー
公開:19/02/03 23:30
更新:19/02/03 23:32

壬生乃サル

まったり。

2022年…3本
2021年…12本
2020年…63本
2019年…219本
2018年…320本 (5/13~)

壬生乃サル(MiBU NO SARU)
Twitter(@saru_of_32)

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