宝石神話:十一月『林檎争い』

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争いの女神は、天の丘の宴に、己が招かれぬ事が不満だった。
めでたい席に不和を厭う心情も解る。しかし、寄ると触ると喧嘩の戦神姉弟は許され、何故己は弾かれる。地上育ちの半神、神の見初めた人間まで、次々輪に加わってゆくのに。
女神の荒々しい姿も、口突く罵倒も役目で担うもの。招いてくれたら、誰より愛と幸福を語るだろう。荒んだ争いに浸る己以上に、対極にある平和の尊さを、理解し慈しむ者はない。

『最も美しき女神へ』
ある祝宴に彼女が投じた黄玉の林檎を巡り、女神達が諍った。
争いの女神は、物陰から欲と見栄の張り合いを嗤った。
収集の付かぬ判定を預かったのは、地上の羊飼い。何れ劣らぬ美神が彼に迫る中、羊飼いは隠れた女神に近寄り、笑って林檎を捧げた。
「落し物は持ち主に」
争いの女神は輝く林檎をもぎ取り、紅潮した顔で走り去った。

この件が起因となり、後に天地を揺るがす大戦が勃発するが、それはまた別の話。
ファンタジー
公開:19/02/02 11:00
誕生石と神話 十一月:黄玉(トパーズ) 争いの女神エリスと金の林檎

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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