宝石神話:十月『虹の火葬』

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生れ星には加護を、そうでない者には波乱を招くとされる『遊虹石』を、数多の功業を終えた英雄は、糟糠の妻に与えた。
己はその巡りにない。石を胸に微笑んだ妻は、英雄に真実を告げなかった。ようやく戻った夫が、英雄らしい独尊の性で、新たな旅に出る事は十分考えられた。
お前一人と囁かれた女が、過去幾人あって、現在幾人あるかもあえて問わぬ。従順に微笑み頷けば、完全に捨てられる事はない。夢うつつ、他の名で称ばれるのにも慣れた。

だのに、妻の忍従を、英雄は踏み躙った。
どの女より長く座った席を、突然明け渡せと要求され、英雄の妻は、古い邸ごとお払い箱になった。

そろそろ、夫は衣から回った灼熱に悶え、半神の不死を呪う頃。
長年身近に携わり、愛用の毒矢の効能は知り抜いている。
最期の旅路は、夫婦揃って。ささやかな願いが成就する。火山の口へ投身した妻の、胸に抱いた『遊虹石』が融け、妖しの幻を燃やしていた。
ファンタジー
公開:19/02/02 10:00
更新:19/02/02 10:00
誕生石と神話 十月:蛋白石(オパール) 英雄ヘラクレスと妻 ※遊虹石は創作です

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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