宝石神話:七月『慟哭の風』

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草生す野原を、風神は膝を屈め、空気の袖に撫でた。
もう幾代経たか。それでも未だ琴線を揺らす。

天の丘を治める大神と、太古の神の間に生まれた風神は、天の息吹と先触れを運び、世界を旅する。
父神は彼を便利に使い、表に出来ぬ用を申し付ける。いつも若々しい父が憎めぬ反面、虚言と詭弁の業も負わされた己を鑑み、皮肉が兆す。

――あれは、風神の眷属であった白鳩に、大神への思慕を告げられた時。
多情で放埓な父は、ひとりに誠を尽くす男ではない。風神は弁を駆使し、弄ばれた者達の悲劇を論ったが、恋に眩んだ白鳩は耳を貸さなかった。
野に遊ぶ大神を認め、恋を囀った白鳩は、『道を遮った』と、その場で雷に撃たれた。
焼け焦げた翼を懐に、風神の周りで渦が巻いた。丘の木々を薙ぎ払い、神々の館を砂塵に埋め、嵐は地上隅々まで蹂躙した――。

白鳩の形見を紅玉の瞳に宿し、風神は空を行く。
忘れられた墓に、今年も夏の嵐が吹く。
ファンタジー
公開:19/02/02 07:00
誕生石と神話 七月:紅玉(ルビー) 大神ゼウスと旅の神ヘルメス

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

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