宝石神話:三月『海泡に記す』
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波打ち際に胡坐をかき、海神は水平線に向かう。
昼の青い瞳も、今は夕暮れの茜に燃え、じき紫から藍へ沈む。
時や気象に合わせ、姿も衣も色を変じる。海水の化身である彼は、固有の彩りを持たぬ。支配域を離れれば、概ね透明な薄青で認識されるが、見る者により印象は異なった。
それをいちいち訊ねる程、海神ももう稚くない。兄の冥王は、自ら地底の闇と死者の守りに退き、弟の大神は、天地の柱に君臨し覇権を振るい、間の海神は、残された水の玉座を埋めたに過ぎぬ。己の影の薄い事は重々承知で、太古の昔より、彼は海に漂い、時に澱み穢れ、時に凪ぎ、荒れ、世界を潤おし満たす潮と過ごした。生まれては消える泡沫に、耳を傾け過ごした。
海に没した命が、海面に浮かび、弾ける。魂は冥府の管轄へ。生涯の記録は、砂粒程の水宝玉に代わって、衣や髪に纏う。長く裾引く歴史の波を広げ、風に吹かれながら、海神はじっと、煌めくうねりを見つめている。
昼の青い瞳も、今は夕暮れの茜に燃え、じき紫から藍へ沈む。
時や気象に合わせ、姿も衣も色を変じる。海水の化身である彼は、固有の彩りを持たぬ。支配域を離れれば、概ね透明な薄青で認識されるが、見る者により印象は異なった。
それをいちいち訊ねる程、海神ももう稚くない。兄の冥王は、自ら地底の闇と死者の守りに退き、弟の大神は、天地の柱に君臨し覇権を振るい、間の海神は、残された水の玉座を埋めたに過ぎぬ。己の影の薄い事は重々承知で、太古の昔より、彼は海に漂い、時に澱み穢れ、時に凪ぎ、荒れ、世界を潤おし満たす潮と過ごした。生まれては消える泡沫に、耳を傾け過ごした。
海に没した命が、海面に浮かび、弾ける。魂は冥府の管轄へ。生涯の記録は、砂粒程の水宝玉に代わって、衣や髪に纏う。長く裾引く歴史の波を広げ、風に吹かれながら、海神はじっと、煌めくうねりを見つめている。
ファンタジー
公開:19/02/02 03:00
更新:19/02/01 00:55
更新:19/02/01 00:55
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創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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