宝石神話:一月『冥王の妃』

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農耕の女神の娘は、黒衣に先導され、糸杉の路を辿っていた。
会話の無い道行きは冥府の闇より暗く、足は枷を填めた様に重い。

夜の花に魅せられ、狭間に堕ちた娘を助けたのは、冥府の王だった。
三界の一を支配しながら、天の丘に席を持たぬ神。世の秩序を保つ為、自ら闇へ降りた彼の、秘めた優しさ美しさを、娘は愛した。叶うなら、己が彼の光になりたいと望んだ。
しかし冥王は、娘を拒み、父である大神へ報せた。城に通して饗応もしなかった。冥府の食物を口にすれば、地上へは戻れない。若い娘を闇に縛りたくないと彼は言った。農耕の女神が、『娘を拐かされた』憤りと嘆きに、地上を渇きと不毛へ陥れた事も知っていた。

地上の断崖で、先を行く足が鈍る。
娘は冥王の黒い瞳に縋った。光と闇の境界で両者は対峙した。
――突然、娘は闇へ攫われた。黒衣の胸に留めた柘榴石が唇に触れ、本物の果実に変じた。

そうして、娘は冥王の妃になった。
ファンタジー
公開:19/02/02 01:00
更新:19/02/01 00:54
誕生石と神話 一月:柘榴石(ガーネット) 冥王ハデスとペルセポネ

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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