宝石神話:六月『片恋真珠』
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美の女神は、寝台で網に絡まり、夫の平静な沈黙を浴びる。
傍らには情夫の軍神が、むっつり敷布に潜ったきり。あられもない姿で吊し上げられた二柱を拝もうと、酔狂な神々が表に詰め掛けている。
――失敗した。女神は密かに舌を打つ。
仮にも妻の不貞と、この扇情的光景を前に、眉一つ動かさぬ。渾身の仕掛けが空振り、自信喪失気味でもある。
女神の夫は、工芸の匠にして、大神の長子である。外見の醜さを母に疎まれたが、彼の無骨な手が紡ぐ品は、まさに天上の至宝。大神の命での婚姻とは言え、美と匠の縁は必然。己を筆頭に、端麗な造作に慣れた女神は、夫の強烈な個性に、むしろ新鮮さを見出してもいた。
甚だ不本意な事に、夫は美を創るのに熱心でも、愛でる方に頓着せぬ。気を惹こうと足掻き、色物に走ってこの始末。
虚ろな溜息が零す真珠の雨を、ぞんざいに箒で掃く夫。
粒を選り分け、一応活用を検討中?
喜んでしまう己が不憫だ――。
傍らには情夫の軍神が、むっつり敷布に潜ったきり。あられもない姿で吊し上げられた二柱を拝もうと、酔狂な神々が表に詰め掛けている。
――失敗した。女神は密かに舌を打つ。
仮にも妻の不貞と、この扇情的光景を前に、眉一つ動かさぬ。渾身の仕掛けが空振り、自信喪失気味でもある。
女神の夫は、工芸の匠にして、大神の長子である。外見の醜さを母に疎まれたが、彼の無骨な手が紡ぐ品は、まさに天上の至宝。大神の命での婚姻とは言え、美と匠の縁は必然。己を筆頭に、端麗な造作に慣れた女神は、夫の強烈な個性に、むしろ新鮮さを見出してもいた。
甚だ不本意な事に、夫は美を創るのに熱心でも、愛でる方に頓着せぬ。気を惹こうと足掻き、色物に走ってこの始末。
虚ろな溜息が零す真珠の雨を、ぞんざいに箒で掃く夫。
粒を選り分け、一応活用を検討中?
喜んでしまう己が不憫だ――。
ファンタジー
公開:19/02/02 06:00
更新:19/02/01 19:52
更新:19/02/01 19:52
誕生石と神話
六月:真珠(パール)
美の女神アフロディテと
匠の神ヘパイストス
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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