宝石神話:五月『大妃の嫉妬』
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婚姻の神である大神の妃は、眉間に皺寄せ、緑の枝を手折った。
森の精の抗議も、鋭い眼光に静まる。どうせ年増の妬みと陰で囁くのだ。さりとて鷹揚に構えても、結局は物笑いの種。
次から次と浮名を流す夫に、正直妃は疲れた。我が子も独立し、夫は挨拶にしか訪れぬ。妃のみが義理を通して何になる――。
例によって、外に女を作った大神を、小癪にも庇った森の娘。まだ若かった妃は、激情に任せ、彼女の姿と無駄口を奪った。人の言葉尻を返すだけの谺に変わった娘に、相愛の恋人がいたと後で知った。
娘の面影を偲び、泉の畔で果てた若者は、花に身をやつし、なお娘を待つと云う。流石に憐れを覚えた妃は、恋人達を復縁すべく、森の泉に足を向けた。
ポキン。硬質な音で、二本目の枝が折れる。
巨大な緑柱石と化した森に、もはや声は響かない。水鏡で戯れる花と谺も、永遠の静寂の虜。
所詮、生身の絆は脆いもの。不変の石くれの方が、余程幸せだ。
森の精の抗議も、鋭い眼光に静まる。どうせ年増の妬みと陰で囁くのだ。さりとて鷹揚に構えても、結局は物笑いの種。
次から次と浮名を流す夫に、正直妃は疲れた。我が子も独立し、夫は挨拶にしか訪れぬ。妃のみが義理を通して何になる――。
例によって、外に女を作った大神を、小癪にも庇った森の娘。まだ若かった妃は、激情に任せ、彼女の姿と無駄口を奪った。人の言葉尻を返すだけの谺に変わった娘に、相愛の恋人がいたと後で知った。
娘の面影を偲び、泉の畔で果てた若者は、花に身をやつし、なお娘を待つと云う。流石に憐れを覚えた妃は、恋人達を復縁すべく、森の泉に足を向けた。
ポキン。硬質な音で、二本目の枝が折れる。
巨大な緑柱石と化した森に、もはや声は響かない。水鏡で戯れる花と谺も、永遠の静寂の虜。
所詮、生身の絆は脆いもの。不変の石くれの方が、余程幸せだ。
ファンタジー
公開:19/02/02 05:00
更新:19/02/01 00:56
更新:19/02/01 00:56
誕生石と神話
五月:緑柱石(エメラルド)
ゼウスの妃ヘラと
エコーとナルキッソス
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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