宝石神話:四月『月神の涙』

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月の姫神は、太陽神の双子の妹である。
銀を織った狩着に身を包み、短髪を靡かせて弓を射る姫神の、凛々しい麗姿に憧れる者は多いが、彼女は誰の求愛にも応えず、腕を磨いた。
自由と純潔の護り手は、何にも冒されぬ存在であらねばならぬ。孤高の姫神は張り詰めた面で、千万の夜を踏破した。

新月の宵、姫神は地上で、豪放な狩人と出会う。己と匹敵する名手を知った姫神は、夢中で彼と弓を競った。神の務めも放棄し獲物を追う。山野は屍に埋まり、河川は血に染まった。

太陽神が姫神に条件を課した。
海の果て、曙に宿る樹を射抜いてのけたなら、狩人を天の丘に迎えよう。
姫神は瞑目し、身を返しざま弓を引いた。銀の光が遥か東の黒点を穿つ。

凛然と去る狩着を見送り、太陽神は、足元の砂にまみれた雫を拾った。曙の褥に横たわる、不実者への餞別には惜しいが、それが妹の意志。
太陽神の掌で金剛石になった雫は、天空に新たな星座を創った。
ファンタジー
公開:19/02/02 04:00
更新:19/02/01 00:55
誕生石と神話 四月:金剛石(ダイヤモンド) 月の女神アルテミスとオリオン

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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