オセロのまち

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月の光は僕だけの影を石畳に描いてくれる。白壁の通りでは月とオセロをしている気分で、ひとりぼっちの散歩も悪くない。
ここはバスク地方のとある町。名前を聞いたのに忘れてしまった。
僕には友達がいない。
そのこと自体は気にならないのだけれど、クラスでいじめられたのには正直参った。
見かねたパパが学校から僕をさらって、仕事で滞在するこの町に連れ出した。
この町には過去が歩いている。
さっきもお侍さんとすれ違った。
その人は素浪人で、雨に濡れた犬のようなにおいがした。
「吉良を捜しているんだが」
授業で習ったばかりだったから僕は聞いた。
「赤穂藩の方ですか」
「いかにも」
僕は調子に乗って、命をかけるってどんな感じですかと質問した。
「裏返るだけだ」
「裏返る?」
「黒を白に。白を黒に」
次の角を曲がるとお侍さんはパタンと消えた。
月の光は僕だけの影を石畳に描いてくれる。
朝がくれば僕も。
パタン。
公開:19/01/31 19:41

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