ハシビロコウ

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まちがえて彼女を納豆の中に入れてしまった。混ぜながら気がついた。さいわい彼女は眠ったままだ。蚕の繭に包まれたような彼女。やさしい寝顔。ねっとりとした髪。
私は残業続きで疲れていた。
うっかりした。そんな言葉で許してもらえるとは思えない。

彼女はハシビロコウに似ている。
全体的には可愛い感じなのだけど、じっと何かを見つめる顔には怖さもあって、次に笑うのか、怒りだすのか、飛ぶのか、それがわからない。わからないのは怖い。
きっと彼女は怒るだろう。納豆まみれなのだから。
どうするべきなのか。
しかしおなかがへった。
こうしているうちに炊きたてのごはんが冷めてしまう。
私は彼女に触れないように、そっと納豆をごはんにのせて食べた。
うまい。
味噌汁を口に含む。
あぁうまい。
日本に生まれてよかったと思う瞬間だ。
そのときだ、納豆の中の彼女と目があったのは。
ハシビロコウがねっとりと笑った。
公開:19/01/29 10:43

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