低めいっぱい

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私はノーヒットノーランを記録した。違う意味で。
プロ在籍4年で打率0割。打点0。
とにかく打てなかった。
シーズンの途中で来季の契約はないと告げられた。他球団からのオファーなどあるはずもない。
私の父、千本木雄二は日本球界のレジェンドだ。すでに他界したが、私は天才の忘れ形見だとか、七光りだとか、色々言われながらも父が活躍した球団でプロになった。
父の子でなければ入団できなかったかも。そんなふうに思ったことが幾度もある。
「辞めたくない」
「仕方ないよ」
「お前から監督に」
「言えるわけないでしょ」
「…もう、別れるしかないか」
「怒るよ」
「でもこのままってわけには」
「好きじゃないの?」
「好きだよ!でも」
「離れないで」
「七美ちゃん…」
「父はあなたを愛してる」
「俺だって」
「応援してる。いつかお母さんって呼べる日まで」
ズドン。
想いまっすぐ。ミットもなくても。
恋に引退はない。
公開:19/01/30 11:18

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