釦の男

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「伊織さん。瞬と婚約してくれてありがとう。今日はお呼びだてしてごめんなさい。ええ、瞬はお仕事。伊織さんに、お話ししておきたいことがあったの。
 昔、洋裁の内職が忙しかった頃、瞬は、何でもかんでも口に入れる子になったの。針なんか危ないから、釦を端切れに縫い付けて、玩具にしてあげたのよ。
 釦をいじったり頬ずりしたり、すごく気に入って。それで、四六時中釦をいじっていないと落ち着かない子になってしまった…
 小学校には、ハンカチいっぱいに縫い付けたのを持たせてたんだけど、いじめられて。それからは服の裾や袖に縫い付けてあげたりして、試験も乗り切ったわ。
 でも最初の女性と、その… 裸だとね…
 そこで、シーツや毛布にびっしりと縫い付けてあげて。パジャマの表にも裏にもね。
 伊織さん。だから、夜のことは心配しないで。最初は少し気になるかもしれないけど、裸で釦に包まれるのって、そりゃ、とっても素敵よ」
その他
公開:19/01/30 10:20
更新:19/05/28 11:42
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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