おーい。

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初めてそれを聞いたのがいつだったか判然としない。酔っ払いが騒いでいる、くらいの認識だったのだろう、気にも留めていなかった。ただ、その異常性に気づいた時には既に、その声は耳に馴染んでしまっていた。
今夜も夜中に目が覚めた。よせばいいのにデジタル時計に手を伸ばし、二時五十二分を確かめる。ということは、そろそろだ。
「おーい」
やはり、来た。
夜闇の静けさを割って響く、何かを呼ばわる低い声。
「おーい」
部屋の窓に面した通りを移動しながら、声はだんだんに近づいてくる。
「おーい」
布団を頭まで被って目を瞑る。はやく。はやくはやく。
「おーい」
声は隣のアパート辺りまで迫っている。はやくはやく、寝てしまえ。
「おーい」
窓のすぐ外で声が止まった。移動する気配はない。あ、ああ、あ、最悪だ。
「おい」
毎晩、同じ時間、同じ声。カーテン越しにおれを呼ぶ、こいつには何故か足音がない。
ホラー
公開:19/01/27 23:54

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