抱っこ

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娘が社会人になって家を出て、どれくらいになるだろう。同じように子供が家を出た周りの友人らは、寂しさからか犬や猫を飼い始めた。(私も猫でも飼うかな)
遊ぶ友達もいるし、仕事もある。時間をもてあましてるわけじゃない。欲しいのは、僅かな温もりなのだ。膝に乗ってくる小さな生き物の重み、抱っこの重み……。

「抱っこ」
子供の声がして、振り返ると小さな女の子が立っていた。
「抱っこ」
両手を広げる。
思わず、抱えあげて抱っこした。温かくて柔らかい。
「お母さんは?」
女の子は大きく頭を振ってしがみつく。私は女の子を抱っこしたまま、歩き出す。
ゆらゆら、ゆらゆら。
抱っこしているつもりが、いつの間にか、抱っこされているような気持ちになる。
ゆらゆら、ゆらゆら。
温かい、母の匂いだ。抱っこされるってこんな気持ちがいいんだっけ。

ゆらゆら揺れる大きな大きな影が、何かを抱っこしたまま、夕闇に溶けていった。
その他
公開:19/01/25 12:59
更新:19/05/21 09:40

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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