凌雲閣

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昔の話なんだけどね、あたしが若い頃、浅草に十二階建のレンガ造りの塔があってね。ふふふ。すごいでしょ。夜なんて淡い光を纏ってすごく綺麗で、貴婦人のようだったわ。この国もたいしたものだと、列強の仲間入りをしたと、みんなすごく明るく楽しそうだったわ。
でもね、あたしはその塔を見るたびに胸が張り裂けそうになったの。世の中がどんどん豊かに華やかになっていくのに、あたしときたら貧しい長屋に一人暮らし。家族もいない。きっと世界は、あたしのことなんか忘れてしまっていると思ったわ。
そうしたらね、あの地震でしょ。東京中が火に包まれて、あんなに華やかだった塔が一瞬で崩れてしまったの。
ああ、儚いなって思ったわ。
もう、あの塔のことを憶えている人も、今じゃ誰もいないわね。
えっ?あたしが誰かって?そうね。誰だったかしら。忘れてしまったわ、そんなこと。今はこうして土の中で、静かに眠っているだけだからね。
ファンタジー
公開:19/01/25 11:55
更新:19/02/04 11:15

鳥谷尾 吉( 千葉 )

田丸先生の講座を受講したことをきっかけに、ショートショートを書き始めました。表現するのは楽しいですね。末永く、書き続けていくのが今の目標です。
 

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