蛍の泳ぐ海

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海を泳ぐ蛍を、見た事があるだろうか?
ウミホタルという発光貝虫も存在するが、あれは漂うに近く、泳ぐとは言い難い。
海底付近の冷たい水を遊泳する、別の蛍の話である。

蛍烏賊(ほたるいか)。指で摘める小さなイカで、普段は深海に住み、産卵期に浮上する。春から初夏に漁獲され、俳句の季語にもなっている。
普段の彼らが、光りながら泳いでいるわけではない。敵に遭遇した時、通常のイカは墨を吐いて逃れるが、暗い深海で、その手は通じない。
だからこそ、光る。彼らの燐光は、人間の目には蛍の如き儚いものだが、闇に慣れた者達には、カメラのフラッシュに等しい目眩まし。恋を語る為でなく、いざという時の奥の手として、命の焔を秘めている。

網に絡め取られ、青く瞬く光点を見る度、彼らの『悲鳴』を目にする度、物憂い感傷に捕われる。
今年もじき、彼らが店に並ぶ季節が訪れる。
そして私自身、その幾らかを買い、食卓に上げるのだ。
その他
公開:19/01/25 04:00
深海生物シリーズ② 蛍烏賊(ほたるいか)

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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