幻魚(げんげ)

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故郷の海の、深い処を泳ぐ魚である。
深海魚を漁る風習、さして珍しくなかろうが、あえて『幻』と付ける所以は何なのか。実のところ、故郷の民も知る者は少ない。
底引き網に掛かって大量に揚げられ、かつては浜に棄てていたと言う。ゆえに下の下が訛り、げんげ。
現在も沿海では、比較的安価で取引される。恐らくこの字面が気に食わず、風流人が漢字を当てた結果、隠れた珍味として重宝される様になったのでは、と読む。

さて、漁れたての幻魚の外見は――ぬるりとしている。
貌は一丁前に魚の態だが、胴は白い鰻に似て、グロテスクな寒天と表現すればよいのか、お世辞にも美味そうな印象は受けない。この『ぬるり』が、女性に嬉しいコラーゲンの塊。これを食うから、我が県は美肌自慢なのだと言い張る向きもある。(あくまで俗説)
干物などで供され、味噌汁や揚物にする。

興が向かれた方は、取り寄せも可能なので、お試しあれ。
案外、美味い。
その他
公開:19/01/25 03:00
深海生物シリーズ① 幻魚(げんげ)

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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