涙の贈り物

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マリさんは泥棒だ。
僕の腕の中でマリさんの涙を見た夜、僕は何かすっきりしていた。まるで自分が誰かの腕の中で泣いたような気持ちだった。
マリさんは、夕暮の風が揺らす梢の音を集めに行っている。近くの神社の森へ行ったか。遠い大陸の山奥へ行ったか。行き先は全然知らないけれど、僕は安心していた。
あの涙は星をもらうよりも確かな贈り物だと思えたから。
翌日、日が沈む前にマリさんが帰ってきた。上着の下から、枝が揺れる音がする。
「早くこっちへ来て」
ベランダで上着をさっと放り投げると、風が抜けて空が一気に赤く燃え、高い空が群青色に際立った。
遠くで梢が擦れる音がする。
夕日は風を飲み込んで、山の向こうへ沈んでいった。
ファンタジー
公開:19/01/23 14:02
更新:19/04/12 13:58

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