字の汚いブランドもの

友人は字が汚いのがコンプレックスだった。ある日ネタのつもりでSNSに投稿してみると予想以上に拡がり、当初の笑い話から芸術論、社会運動、人権活動に飛び火し、終いにはブランドまで立ち上げることになった。
崩した日本語がクールだの彼の深いメッセージ性を支持するのがステータスだのと海外のセレブ達から人気を得てブームは最高潮に達した。
僕は友人を祝して2人で飲みに出掛けた。
「ところであの字はなんて書いてあるの？熱狂的なファンから色々考察されてるけれども｣
「それがねえ自分でも読めないんだよ。ヤケクソで思いついたのを片っ端から書いてその中からプロデューサーが選んでるから」
そう言うと友人は憂鬱な顔をして震えだした。「ほら最近ちょっとした発言で大騒ぎになるだろう？とんでもない事書いたんじゃないか、不安で夜も寝られないんだよ｣
友人は遠い目をし、おツマミの精神安定剤を口いっぱいに頬張った。