おまえ死んでも寺へはやらぬ

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親父が死んだ。まともに育てられた覚えもなし、四十年も行方が知れなかった親父だ。道端で倒れていたのを救急搬送され、入院したと聞いたのが二週ばかり前、見舞いへ行く間もなく末期の癌だかで死んだ。
通夜も告別式もせず、十名ばかりの親類を焼き場に呼んだ。焼香と読経を済ませ、親父は呆気なく焼かれに行った。控え室で、故人の悪行を知る親類達は口々お袋を労った。そんなおれ達を遠巻きに、四十ばかりの若い女が一人立っていた。誰と話すでもなく、窓から曇り空をじっと睨んでいる。親父と一緒に暮らし、ここ十年ほど面倒を見た女だと皆が知っていた。
一時間後の骨上げで、女が白いものを一つ、鞄に忍ばせたのを見た。驚いて思わずお袋に視線をやると、お袋は小さく首を振った。
全てが終わって初めて、お袋は例の女に言った。
「あなたも、ご苦労さまでしたね」
女は打たれたように立ち竦み、頷き、泣いた。
親父は無縁仏として葬った。
その他
公開:19/01/24 01:00
更新:19/01/24 00:46

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