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 知人が闘病の末、亡くなった。
 彼とは、小中と同じクラスだった。彼は太っていて、クラスの笑いの中心にいた。私は痩せていて、独りだった。彼は私によく声をかけてきて、時折、「××君みたいになりたい」と言った。私にはなんだか、気持ちが悪かった。

 通夜会場の受付の女性は、何だか気分が悪そうだった。
 遺影の彼が丸い顔で笑っている。歩いていくと、会場がザワついた。彼の母親は、幽霊でも見るかのように私を見た。
 焼香を済ませ、棺の中の彼を見た。見る影もなく痩せ細り、納棺師の技をもってしても、闘病の凄まじさを和らげることが難しかったとおぼしきその顔は、私にそっくりだった。
 その場を逃げるように去り、家に戻って鏡を見た。
『私は一人で好きに生きてる。どうして同じ顔になる?』
 鏡の中の彼は応えなかった。
 募る不安が食欲を煽った。私はどんどん太った。
 だが私の顔は、彼の遺影に全く似なかった。
ミステリー・推理
公開:19/01/23 19:36
更新:19/01/23 19:38

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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