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ここは、東京スカイツリー。世界で最も高い塔で一日を過ごすのが私の仕事だ。
ガラス清掃は花形だが、今の季節は遠慮したかった。
こんな高い場所で外に出れば、一瞬で心も体も凍えてしまう。
硝子の向こうで無邪気に笑う人々を見ていると、憎らしくもなる。
ガラス清掃もあと少しというところで、視界の隅に白い何かが引っ掛かった。
私はゴンドラを寄せ、それを手に取る。
それは、たった一枚の紙きれで

『かじかむ貴女の手へ
そっと私の手をそえることを
お許しください。』

可愛らしい文字でそれだけが書かれていた。
宛名も、差出人も不明。
きっと、思春期の少女が恋文を書いたは良いものの、気恥ずかしさのあまり捨てたに違いない。
昨日は、春一番が吹いたのだ。
少女の想いとて空高くまで飛ばされるというものだろう。
私は行き場の無いその恋心をそっと胸にしまう。
不思議と心の形容し難い所がくすぐったくて、笑ってしまった。
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公開:19/01/21 20:09

普通のへいわじん

月の音色にて噂を聞きまして。
よろしくお願いいたします。

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