帰らない

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マリさんは泥棒だ。
ずんと肩が重くなる。家に帰って来いと連絡があった。両親と弟が暮らす家は、電車を乗り換えて40分ほどの所にある。残念だけどそう遠くない。
正月も帰って来なかったんだから母親の誕生日くらい顔を見せろと言う。
僕には自分の稼ぎがない。祖母の持つマンションの一室で、親のお金で暮らしている。こんな暮らしは早く終わらせたい。
マリさんも僕も、互いに身の上話はあまりしない。彼女が何処の誰なのか僕は知らない。彼女も僕の家族を知らないし、僕が毎日通っている学校というものがどんなものかもきっと知らない。
「泥棒になりたいな」
マリさんに呟いた。
不意をつかれた顔をして、マリさんが僕を見つめる。立ち上がり、キッチンに向かう。戻ってくると「元気出して」とプッチンプリンを差し出した。
こういう夜は、マリさんに養われたい、と弱音が胸でこだまする。
だけど、プリンを食べて確信する。僕は帰らない。
ファンタジー
公開:19/01/22 18:17
更新:19/01/23 20:24

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